東北大学 末光・吹留研究室の研究内容をご紹介

ご挨拶

半導体はこれまで、シリコンデバイスの微細化によって、高速化と大集積化を同時に実現してきました。しかしこの戦略にも限界が見えつつあります。一つはシリコン物性による微細化限界、もう一つは微細化コストの急速な増大による収支限界です。この問題を解決するには、シリコン以外の新材料をシリコンテクノロジーに持ち込まなくてはなりません。私たちが追求する新材料はグラフェン。シリコンの百倍という速さで電子が走る、まさに夢の材料です。2010年のノーベル物理学賞がこのグラフェン研究に与えられたことは、皆さんの記憶に新しいことでしょう。私たちの研究室では、このグラフェンをシリコン基板の上に形成することに世界で初めて成功し、世界の注目を集めています。このグラフェンを高速トランジスタや光デバイス、あるいはMEMSに応用する研究を展開中です。
社会が半導体に求める役割もこの10年間で大きく変わってきました。スマートフォンの普及によって情報化社会が個人レベルまで浸透した今日、半導体の新しい役目はエネルギー問題の解決だと思っています。今、日本ではせっかく作った電力の10%(年間800億㌔ワット時)を電圧や東西周波数変換で失っていますが、これは100万㌔ワット原発10基が年間フル稼働した発電量に相当します。電力損失がこんなに大きい理由の一つは、電力変換のスイッチに使うシリコンのバンドギャップが小さすぎることです。良いスイッチとはON状態で電気がよく流れ、OFF状態で電気が全く流れないスイッチのことですが、シリコンはバンドギャップが1.1eVしかないため、OFF状態で完全に電気を切るのがむづかしいのです。OFFで電流をちゃんと切ろうとすると、どうしてもON状態の電気抵抗が高くなってしまい、これが電力損失になります。この問題の切り札として当研究室が注目するのがバンドギャップ2.52eV以上のシリコンカーバイド(SiC)です。SiC電力デバイスが普及すると、上に述べた電力損失10%が一気に1-2%までダウンし原発9基分が不要になります。そのほか、インバータエアコンの消費電力が年間6%ダウン、電気自動車の電力損失7%が2%にダウン、地下鉄に至ってはその消費電力が39%もダウンするという素晴らしさです。私たちの研究室では、この高品質なSiC結晶をSi基板の上に作ることで、このエネルギー問題の解決に貢献しようとしています。実は、上に述べたグラフェンも、Si基板上SiCの上に作られているのです。
数十年先の未来を見据えた最先端の技術開発を私たちと共にやってみませんか。世の中を変えたいという野心をもった学生諸君の参画を歓迎いたします。

東北大学
電気通信研究所 教授
末光眞希

研究内容

Si基板上SiC薄膜成長の表面化学

Si基板上にSiC薄膜を形成することで、Siテクノロジーの可能性が更に大きく広がります。末光研では、独自に開発した有機シランによるガスソース分子線エピタキシ(GSMBE)法を用い、Si基板上へ高品質SiC薄膜を低温(~1000℃)形成し、Si基板上に高品質なSiC薄膜を低温で形成する技術を研究しています。ロシアの研究者と共同研究を行っています。

Si基板上SiC薄膜を用いたグラフェン・オン・シリコンプロセスの表面化学

Si基板上のSiC薄膜を真空加熱することで、Si基板上にグラフェンが出来ます。末光研では、Si基板上へSiC薄膜を形成し、さらにこのSiC/Si薄膜を高温アニールすることでSi基板上にグラフェンをエピタキシャル結晶成長させるグラフェン・オン・シリコン(GOS)技術の開発に世界に先駆けて成功しています。

グラフェン・オン・シリコン構造を用いた超高速デバイス

グラフェン・オン・シリコン(GOS)技術を使えば、Siよりさらに速く動作するトランジスタが期待できます。現在、SiC及びグラフェンの一層の高品質化に取り組み、Si基板上パワーデバイス、並びにSi基板上グラフェンを用いたTHz動作FETの実現を目指して研究を行っています。

MEMS技術を援用したDirac電子系の新機能開拓と多機能集積デバイス開発

SiCおよびグラフェンをはじめとするDirac電子系の表面物性を、放射光を中心とするナノ計測技術を駆使して詳細に調べ、GOSプロセスとグラフェン電子構造の関係を明らかにしています。とくに使用Si基板の面方位を用いたグラフェン構造・電子物性制御法の開発はグラフェンの工業化に道を拓くものであり、ナノ表面加工によるグラフェン物性の制御と併せ、研究に注力しています。

研究室紹介動画

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